マスターのお心遣い
僕は、よく行く喫茶店の窓際席で、外の景色を見ながら、ぼんやりとホットコーヒーを飲んでいた。
「景気悪そうな顔して、どうしたの?」
他にお客さんがいなかったということもあり、マスターが心配して声を掛けて来てくれた。
「あ、マスター・・・・・・」
「ストレスたまってるの?」
「そうですねぇ~。このところ、いろいろありましてねぇ」
僕は、浮かない顔そのままに、マスターと言葉を交わした。
「その様子じゃ、長いこと、ケーキなんか食べてないんだろ?」
「は、はい、そうですね・・・・・・」
「さ、ほら!これ!」
「えっ?!」
「最近、うちで売り出し中の、手作りケーキ!他のお客さんが来ないうちに、さっ、食べちゃいな!」
「えっ!?いいんですか!?」
「あぁ~、もちろん!景気づけだ!食べな!」
「ありがとうございます!いただきます!」
僕は、マスターのやさしさが心にしみて、何だか泣けてきた。
「おいおい、泣くなよ!」
「すいません!でも、マスターのお心遣いがうれしくって・・・・・・」
「いやいや、そんなそんなぁ~。どうだ、うまいか?!」
「ハイッ!うまいっす!めっちゃくちゃ、うまいっす!」
「おぉ~、いい食いっぷりだぁ~!その笑顔!その笑顔!その笑顔が見たかったんだよ!」
「ありがとうございます!」
「その食いっぷり見てると、何だか、こっちまでうれしくなっちまうよ!よしっ!他のお客さんが来ない間、どんどん食べな!こうなりゃ、景気づけだ!遠慮しないでどんどん食べな!」
「ありがとうございます!」
マスターのやさしい人柄と、そのやさしい人柄がぎっしり詰まったケーキのやさしい味が、僕のちっぽけな悩みなんて忘れさせてくれた。
久しぶりに、「人のあたたかさ」と「やさしい味」に触れ、すっかりと僕は癒された。気分スッキリ!で、マスターにお礼を言った。
「マスター、ありがとうございました!そろそろ帰ります」
「気分転換できたかい?」
「ハイッ!おかげさまで!」
「よかったよかった」
「お勘定お願いします」
マスターはレジを軽く打ち出して、
「はい、そしたら、税込みで52,500円になります!」
「えっ!?」
「えっ!?って、何が?」
「ケーキって、その・・・・・・」
「ケーキ10個、君、食っただろ?」
「は、はい」
「素材にもこだわった、手の込んだ手作りケーキ1個5,000円×10個だから、50,000円!それに消費税2,500円!ホットコーヒー代、税込み420円は、サービスしてやってるんだよ!何か、文句ある?!」
「ケーキは、その・・・・・、『景気づけに!』って、マスターのおごりじゃぁ~~・・・・・・」
「何を寝ぼけたこと言ってるんだね、君は~。『景気づけに!』って、そんな都合よく解釈されちゃぁ困るなぁ・・・・・・。サービスなんて、一言も言ってないだろ~」
「そ、そんな・・・・・・」
「『景気づけ』じゃなくて、うちの裏メニューの、『ケーキ漬けコース』なんだよぉ~」
「おっ、おっ、鬼だぁ・・・・・・」
「うちも景気が悪いんでねぇ~・・・・・・」
厨房の奥から、ポキポキッ!ポキポキッ!と指を鳴らしながら、イカツイお兄さんたちが、こちらを覗いていた。
「マスター、ここって、そういうお店?・・・・・・」
「そう!そういうお店」
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コメント
自分の店の景気づけで、タダではないだろうなぁとは思ったけど、ケーキ漬けの超高値コースとは予想外でした。
阿漕な店でしたねヾ(^_^;
>>なおちんさん、>>
コメントありがとうございます。
『甘い』言葉には、気をつけないといけませんね。
小松知広
投稿 なおちん | 2008年5月16日 (金) 19時31分